澤村杏太朗 (指揮者)
クオーレ・ド・オペラ第1回目の公演より音楽スタッフとして参加している澤村杏太朗君からの近況報告です。彼は昨年イタリア ミラノ ヴェルディ音楽院、指揮科に合格し、現在イタリア留学真っ只中です。今年の春はイタリアはすごく厳しい状況でしたが元気に耐えたそうです。
イタリアの地に降り立ってから早10ヶ月、必死に毎日を生きていると時間は飛ぶように過ぎていく。一方で学べば学ぶほど学びたいことが増え、時間はいくらあっても足りない。そんな矛盾の中でもがき続けて、気がつけば自分が日本でどうやって生きていたか思い出すのがすっかり難しくなってしまった。何だかすっかり違う人間になってしまったような感覚すらある。
遠慮すれば食われる、主張がなければ無視される、というこちらの雰囲気は実際に体験してみると相当強烈である。いい人のような顔をしてにこにこしているだけでは名前すら覚えてもらえない。文法がめちゃくちゃだろうがなりふり構わず質問し、議論し、自分に興味を持ってもらわなければ存在価値がないも同然。
これは音楽に関してだけではなく、例えばふとした友人同士の会話の中でお互いの国の政治について話したり、社会問題について意見を言い合ったりということが多々ある。そんな中で自分という存在の薄っぺらさ、空っぽさに嫌というほど気づかされる。
逆に自分のいいところも見つけた。それは緻密に準備して何事にも臨むのに慣れていることである。はっきり言ってどんなに優秀な友人でも、自分ほど楽譜を読み込んだり、記憶したり、そういった準備を充分にしていると感じたことは一度もない。しかしそれがストレートに結果に結びつくわけではないのが音楽という世界の難しいところである。
日本で多く経験を積むことができたオペラについては、高い評価を受けている。発音に対する意識や、歌手と一緒に演奏するときの呼吸など、こちらでも通用する自分の武器があることは誇らしい。ただし、歌い過ぎてしまう自分の欠点もすぐには治らないもので、Testa fredda cuore caldo をひたすら自分に言い聞かせている。
現在は中央イタリアに位置する丘の上の美しい街オルヴィエートに滞在中で、約1ヶ月半にわたってロッシーニとプッチーニを歌手、オーケストラと共に勉強するマスタークラスに参加している。8月末には選抜された受講生による公演がある。
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